こんにちは、CMBOです。
早速前回の続きです。1985年7月30日に行われた全日本プロレス福岡スポーツセンターでのジャイアント馬場対スタン・ハンセン戦の試合レポートです。何故急にそんな話をブログで書き始めたか、、、、前編をご覧ください(笑)
セミの天龍・石川組 対 長州・浜口組の試合は両者リングアウト。決着はつきませんでした。この大会はジャパンプロレス軍福岡市内初参戦の大会。観客の大半、とはいかずとも1/4くらいは長州ファンではないかと思っていたのですが、場内の声援は少~しだけ長州優勢という感じで、それぞれの選手がいい動きを見せるとどちらサイドであろうがどよめき、拍手が自然に沸きあがり、選手もそれに触発されていい動きを見せる気持ちのいい展開となりました。
あくまで私の印象ですが、有料入場者数が多いとこのような状況になりやすいと思います。招待客が多いと選手がいつもよりいい動きを見せてもうんともすんとも客が反応せず一部のマニアだけが必死に拍手を送っているパターンが多いのです。
さていよいよメイン。テレビ中継では双方の入場シーンはカットされ選手権試合宣言からのオンエア、最後も勝者が勝ち名乗りを受けるシーンで終わっていました。私はできるだけ当時の雰囲気を思い出し観戦記を完成させようと思います。
チャンピオン・馬場もチャレンジャー・ハンセンもやや大人なし目の入場だったと思います。ただ私の周囲にいたリングサイドの他のお客さんたちは、控えめながらも大半が馬場ファンではないかと感じました。初老の男性、小学5年くらいの男の子をつれた30過ぎの男性、私と同じくらいの年齢であろう小太りのオタク系おにいちゃん、4~5人で来ている高校生らしき集団。
みなさんセミでの熱狂はそれほどでもなかったのですが、馬場が入場してくると居ても立ってもいられない感じで「馬場~~っ!」と馬場の背中に向けて叫ぶのです。私もそうなのですが「馬場」は「馬場」なのです。後年の「馬場さん」は別の人物なのです。「馬場」は我等のヒーロー馬場なのです。と言っても私が馬場の試合を見だしたのは昭和51年頃からなのでもしかすると全盛期はとっくに過ぎていた感はあるのですが、子供心にはヒーローに違いありませんでした。
ボディチェックも終わりいよいよゴング!双方慎重な立ち上がりであまり大きなモーションの技を仕掛けようとしません。しかし馬場は攻撃のポイントを徐々にハンセンの左腕に移行していきます。あのウエスタンラリアットを放つハンセンの利き腕です。
馬場のハンセンに対する左腕攻撃はこれまでにも再三ありましたが、いずれもダイナミックなジャンプしてのアームブーリーカーが中心でした。馬場の長身を生かした非常に見栄えがいい技です。しかしこの日の馬場は腕ひしぎ十字、アームブロックといった寝技からの地味な体勢からの腕殺しが多かったのです。
リングサイド(2列目)の私からは馬場の表情がよく見えたのですが、困ったような表情というか、老体に鞭打ち必死にハンセンの振りほどきに耐える苦悶の表情を浮かべていたのが印象的でした。これは後年の「馬場さん」が浮かべる表情とは全く別の表情です。展開としては非常に地味なのですが、ハンセンのパンチや蹴りで攻撃を解かれても隙を見て再度腕ひしぎに持ち込む馬場。

私の周囲の客も段々興奮してきました。まだ16文キックもかわずがけも出ていないのですがなりふり構わず腕を攻め続ける馬場の姿に何か感じるものがあったのでしょう。それは私も同じでした。「馬場~っ!折ってしまえ~」そんな歓声も聞こえ始めました。しかし攻める馬場にも徐々に徒労の表情が見え始めます。さすがに全盛時のハンセンをコントロールするのは老体馬場にとってはスタミナ的にきついものがあったのでしょう。
8分ほど経過し試合が動きはじめました。馬場の大技ラッシュです。コンベア殺法!カウンターチョップ!ギロチンドロップ!そしてランニングネックブリーカードロップ!全盛時の迫力には及びませんが、間を空けることなく自身の必殺技を繰り出す馬場!私の周囲の観客も一気に盛り上がります。
しかし不沈艦はこんな事で参るはずもありません。馬場は再度立ち上がりハンセンをロープに飛ばすのですが、動きが緩慢なためか、逆にハンセンのラリアットを食らってしまいます。完璧な一撃!万事休すかと思いましたが馬場は体をローリングさせ場外にエスケープ。一呼吸入れようとするのでした。それを追ってハンセンも場外へ。しかし馬場は襲い掛かるハンセンをうまくかわし逆に鉄柱にぶつけます。ダメージをうけて場外で悶えるハンセン!ここで終わると思いきや両者は再度リングインし試合続行です。
そしてロープに振ってアームホイップでハンセンを横たわらせると再度の腕ひしぎ!「馬場はシン戦の時のようにギブアップでハンセンに引導を渡すつもりなのか?!」そんな考えが頭をよぎりました。私の後ろにいた初老のおっさんは「レフリーストップだぁ!」と興奮して叫びます。
馬場は息を吹き返しました。ハンセンはまたも場外に逃げます。馬場はハンセンの左腕を鉄柱に巻きつけを更に痛めつけます。思わず後ずさりするハンセン。それを尻目にリングに戻ればリングアウト勝ちのタイミングでもあったのです。私たち周辺はすぐそばにいた馬場に「戻れ!戻れ!」「リングアウトで勝てるぞ!」と叫びます。馬場は一瞬リングに戻ろうとしますがなぜか振り向きなおしハンセンの元に向かいます。しかし待っていたのはハンセンの捨て身のドロップキック!場外で大きなダメージを追ってしまいます。

そしてリングサイドで揉みあう馬場とハンセン。馬場のほうがやや攻勢でしたが、水平チョップをハンセンにかわされてしまいバックを取られ、ロープのリバウンドを利用したバックドロップでリング中央に投げられてしまいました。強烈な一撃です。馬場の体はロープエスケープもままならない完全なリング中央です。「これはマズイ!」誰もがそう思うバックドロップでした。

朦朧としながらもカバーに入るハンセン。そして無常にもジョー樋口レフリーの3カウントが入ってしまいました。「ピンフォール負け?」「完敗?」「王座移動?」こんな言葉が次々と頭をよぎりました。私の周囲の観客もそうだったのではないかと思うのです。まだまだ全日本はジョーさん失神や第三者の乱入が頻繁に行われてい味代。ここまで完璧な完全決着がつくなんて想像もしていなかったのです。
ふらつきながらも歓喜の表情を見せるハンセン。これまで馬場を応援していた大半の観客もさすがにハンセンを素直に祝福しました。仲間のスティーブ・リーガル、テキサス・レッドが星条旗を持ってリングに上がりハンセンのベルト姿を祝福したのです。


敗者・馬場は特に何のアピールをする事もなく静かに去っていきました。正に「老兵はただ消え去るのみ」という感じです。アピール出来ないような強烈なダメージを受けている訳でもなさそうですが本当に静かに去って行ってしまったのです。
馬場が去る花道は人だかりで私からは馬場の大きな背中しか見えませんでした。なんだか凄く寂しそうな背中に見えました。私の周囲の観客たちも予想もしない決末にこみ上げるものがあったのか次々に「馬場~」「まだやれる!」「辞めるな~」等と叫びました。初老のおっさんも、子供ずれも、高校生集団も皆。。。小太りオタクは頭を掻きむしりながら呆然としているのです。
皆放心状態のまま観客退場となったのですが、近くの親子連れの会話が聞こえてきました。「リターンマッチあるよね」「ああ、あと少しで馬場の勝ちだったから直ぐにやっていいやろ。絶対にすぐあるくさ!」私はその会話に割って入り同調したい気持ちになりました。
しかし、、、、、ご存知のようにリターンマッチは行われなかったのです。特別名言したわけではないのですがこれ以降リング上ではラッシャー木村とのほのぼのとしたエンドレスな抗争に入り、逆に社長・タレントとしての活躍の比重を高めていったのです。前編でも書きましたがこれ以降シングルのタイトル挑戦、メイン登場は一切ありませんので、事実上の引退試合と言っていいと思うのです。
後年、馬場は「馬場さん」と呼ばれその飄々としたキャラクターが一般社会にも浸透しエレビ・CMにも再三出演。またプロレスファンからもその卓越したプロレス観が改めて浸透しマット界のご隠居的存在になっていきました。

それまでは「ノロマ」だの「弱虫」だの誹謗中傷を受けることばかりが多かった馬場ですが、改めてその人間性が見直されたのはうれしくもありました。しかし全盛時の最後の最後の雄姿を覚えている私としてはやはり「馬場」と呼ばれてこそなんぼ!現役アスリートが「さん」付けで親しまれてはイカンのです。賛美も批判も受け入れるのであればやはり呼び捨て。「馬場さん」では「批判は受け付けない」という無言のプレッシャーがあるように思えます。
しかし、馬場が必死の表情を最後に見せたタイトルマッチを目の前で見ることができたのは本当に幸運でした。馬場の必死な表情というと口を半開きにして相手をぐっと見つめる表情が一番目に浮かぶのですが、この試合の肉体的になんだか辛そうに攻めるシーンの表情ははじめて見ました。おそらく最後の力を振り絞ったんじゃないか?そんな風に思うのです。
アントニオ猪木は派手な引退をテーマとした試合を数年がかりで何試合も大会場でこなした上で、最終的に東京ドームに7万人を集め引退試合を行いました。馬場はご存知のようにこの試合を最後に事実上第一線を退き、単発的にビッグマッチに絡みつつ、体の続く限り前座で選手生活を続けそのまま天に召されました。
有名人の身の引き方にもいろいろなパターンがあるかと思いますが、なにかこう色々な事情で花道が十分に用意されず、成り行き的に去って行った大物。私はかえってそういう人達にリアリティを感じるのです。思えば王選手の現役引退、江川投手、西城秀樹さん、SMAP。。。。そしてジャイアント馬場。
私の父の死もそうだったんです。あの時のあの会話が事実上最後の会話だった、というものがあったのです。ドラマのように臨終の直前家族一同が揃う前でかけられる言葉ってただ照れ臭いだけです。日常を続けていくことに人間の真実があるような気がします。
そして終わりは日常の中で突然訪れるのです。英雄のその姿をたまたま気合を入れて見ることが出来たのはとても幸せでした。だよな!小太りのオタクよ!私がそう思えるようになったのは割と最近なのです。
人生とはそんなものです。なのでいつ終わりが来てもいいよう毎日を精一杯生きていきたいと思います。
今日はこんなところです。それでは、また。
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