こんにちは、みやけです。今回はプロレスの話です。
企画ものとして行っている”シリーズごとの回想”ですが、今回もまた私が実際観戦した興行の話です。テーマとなるのは1983年12月5日世界最強タッグ決定リーグ戦福岡国際センター大会です。今でもよく話題になりますが、公式戦はマスカラスブラザース対ハンセン・ブロディ組がマッチメイクされていました。マスカラスとブロディが険悪な状態になった事で知られる試合です。

記録を見返すと観客数の公式発表は6100人。鶴田対ハンセン、テリー対ブロディの夢の対決が行われ7500人を集客した前年より1000人以上のダウンとなっています。カード的に劣るのでこれはやむを得ないと思います。実際のセンターの埋まり具合もひな壇が設置された1Fアリーナは6割強の埋まり、そして2,3階席は半分も埋まっていなかった記憶があります。全日はとにかく福岡は弱いんですよ!
前にも書いたように私はこの時高校2年生でした。たしかこの日は平日だったと思うのですが、何らかの理由で野球部の練習が短時間で終わることが確定していおり、私は第一試合から観戦した覚えがあります。第二試合では前回の観戦で見る事が出来なかった三沢光晴選手が登場!当時”全日版前座の名勝負数え歌”と評されていた越中詩郎選手とのシングルマッチが組まれました。
20分1本 〇 越中詩郎 (14分27秒 片エビ固め ※ブルドッキングヘッドロックから) ● 三沢光晴

内容は非常にテンポの良いキビキビした展開であり「全日本にもこんな試合ができる選手がいるのだ」と感心した記憶があります。なおこの大会、公式戦は他に原・井上対モンゴリアン・鶴見組が組まれ、その他「夢の対決」としてドリー対シン、馬場対ロン・フラー、天龍対バリー・ウインダムが組まれていました。リーグ戦参加メンバーではジャンボ鶴田と上田馬之助の2人だけが組み合わせが発表されていませんでした。
しかし私は「これは鶴田対馬之助のシングルが組まれるだろうな」と思っていました。鶴田が前座で中堅の日本人選手とタッグマッチ絡む、なんてことはチャンカンや最強タッグ期間中でもないかぎり一度もなかったからです。馬場もそうでした。しかしデストや天龍、戸口はそのような前座に放り込まれることもたまにありました。それだけ鶴田は大事に扱われてきたのです。もう少し時代が後になればこの大会で鶴田対越中・三沢組のハンデキャップチャレンジマッチを組む、なんて企画もあったのかも知れませんがw、結局当日は鶴田対上田戦が普通に組まれていました。それも馬場・天龍の試合を抑えてセミ前に組まれていました。
30分1本 〇 ジャンボ鶴田(2分6秒 反則勝ち ※凶器攻撃)● 上田馬之助
しかしこの試合内容が酷かった!経過は確かこんな感じでした。
先に鶴田がリングイン。上田は後から例によって竹刀を持って入場。上田がリングに入る際に鶴田が襲い掛かり、パンチを連打。思わず上田は竹刀を落とすが鶴田は即座にそれを拾いそれで上田を叩きまくる。オー!で館内にアピール!更に法被を着たままの上田をロープに振りジャンピングニーパット!更にオー!しかし上田はタイツから何やら凶器を取り出し鶴田のみぞおちを一撃!

鶴田は悶絶してダウン!横たわった鶴田に対し更に上田は凶器で鶴田の身体に攻撃を加えます。レフリーは制止しカウントを数えますが上田はやめようとせずついに5カウント、、、鶴田の反則勝ちとなりました。上田は法被を着たまま帰って行きました。流石に私も「なんだこりゃ!」と思いましたね。「仕事せーよ!」という。。。もともと期待値が低かったせいか館内も「金返せ」コールが起こることもなく、次に登場するであろうドリーとマネジャーのテリーを待ち望んでいる感がありました。
ただ私的には「告知無し」で行われた試合が「予想通りつまんなかった」事について非常に憤るものがありました。ただしこの手の試合は当時は連発されていたとは思うのですが、あまりにも露骨すぎる!ようやく前年から全日本も福岡の大会場を再度使用できるようになったのですが、こんな試合をして申し訳ないと思わないのかな?そう思いました。特に上田!前にも書きましたがこの人は他者への批判が多い割には自分の試合はこんなつまらないパターンのが多すぎる!私は上田にはいい感情は持っていないのですよ。
新日時代はそうでもなかったと思うのですが、全日時代はこのような試合ばかりだった印象です。まあとにかくこの試合は悪い意味で後々まで印象に残った結末です。さてメインです。カード的には新鮮味がありますが、この頃のマスカラスは”飛べなくなったマスカラス”と揶揄され、中堅選手相手にもに連戦連勝を重ねる、という日本陣営を去ったデストロイヤー化していたイメージがありました。

実際、この年の正月の来日は(1週間のみの参加でしたが)恒例のバトルロイヤルに参加した以外は馬場・鶴田・天龍の3強とは一切当たらず、”現役バリバリ”感がかなり薄まっていたイメージがありました。そして逆に体力的には全盛時を迎えつつあったドスも何故かマスカラスと一緒に地盤沈下していた感があり、大仁田の長期欠場で手薄になったジュニア戦繊維も全く名前が挙がってこない状況でした。
結局”マスカラスブラザース”としての来日はいったんこれで最後となるわけですが、彼らは「昔の名前で出ています」感が強かったですね。結果は皆さんご存じのとおりですが、私自身も実際この試合を生で見たにも拘らず「もみ合うシーンばかりで期待外れだったな」という感想であり、「マスカラスとブロディが互いの技を受けず、悪い意味で緊張感あふれる試合だった」とは思いませんでした。会場に多く訪れていたちびっこファンも同様だったと思います。
この試合のヤバさは比較的後になって語られるようになった、と思うのですが今回改めて検証し私の感想を書いてみたいと思います。
まず、マスカラスとブロディの最初のコンタクト、流石に最初は変な雰囲気はないのですが、マスカラスがブロディの腕を取り返すとブロディは直ぐにそっけなく振り払ってしまいます。これが出発点に思えなくもありません。明らかに変な雰囲気が流れはじめます。マスカラスはブロディの雑なゴリラスラムにカチンときたのかヘッドロック時に頭を突き合わせやはりごにゃごにゃと密談、、、そしてブロディのショルダーアタックに対して倒れもせずすぐに攻撃の体制を取ります。

そして問題なのは2回目のコンタクト!マスカラスはドスとツープラトンのアトミックドロップを仕掛けようとしますが、これにはブロディはその体勢さえ取らせようとしません。これはブロディの心情も分かりますよ。「通常大型選手が仕掛けるこの技を何故メキシコの蚊トンボ野郎にやられなきゃならんのか?」という、、、更にマスカラスは定番のパンチ連打を放ちますがブロディは全くリアクション無し。
更にマスカラスはブロディをロープに振りショルダースルーを狙います。この時マスカラスの止まっていた位置はロープにかなり近く、ブロディの切り返しを防ぐ意味でもその位置で待ったのではないかと思います。ドロップキック等で反撃するには難しい短い距離ですからね。しかしブロディは1mにも満たない距離で踏みとどまり、強引にカウンターキックを決めます。あまりにも距離が短く見栄えが悪い!
マスカラスはブロディの足をキャッチし後ろに倒そうとしますが、ブロディはびくとも動きません。そしてもみ合い、頭をくっつけ合いまたまた双方何事かしゃべっている雰囲気です。実に”不細工”なシーンです。ブロディはハンセンとタッチしますが、すぐに交代し3度目のコンタクトが発生します。マスカラスは再度例のパンチを繰り出しますがいつもとは違いこぶしの握りのように見えます。しかしブロディはノーリアクション。
マスカラスはブロディの髪を掴み、コーナーのドスに変わろうとしますが、ブロディは抗い、マスカラスのマスクをかなり雑につかんで逆に引っ張ろうとします。その後また抱き合って頭をくっつけあってのもみ合いを繰り返す、、、ブロディはマスカラスをコーナーに振ろうとしますがマスカラスはかなり強引にブロディを振替します。その距離もかなり短く非常に窮屈な印象があります。

マスカラスはブロディの髪を掴みコーナーポストにたたきつけようとしますが、ブロディはそれをうるさそうに振り払います。距離を取ろうと離れるマスカラス、しかしブロディはマスカラスの片足を掴むとマスカラスは転倒!かなりカッコ悪いシーンです。結局ブロディとマスカラスの絡みはこれで終わります。計3回ですが時間的には5分もない短いシーンですね。
全体的に見てもマスカラスとブロディの絡みだけ全く技を受けるシーンがない!ハンセンはマスカラスのドロップキック、フライングクロスチョップ等を受けて、なんとか試合は成立させています。またブロディはドスについてはドロップキックやモンキーフィリップも受けているのです。とにかくマスカラスとブロディの絡みになると「同意なし」の切り替えしが連発され最終的には「仕方ないから身を任せた」みたいな実に不細工な感じになってしまっています。
どのあたりが分岐点だったのか?何度も見直してみたのですが、最初にマスカラス兄弟が仕掛けたツープラトンのアトミックドロップでブロディがカチンときたのではないかと思います。この技の使い手は馬場、坂口、ボブ・バックランドと言ったところでしょう。大型のパワーファイターに似合う技です。しかし意外とメキシカンも多様する技なんですね。しかもマスカラスは「軽量級の選手ではない」という事をアピールしたいがためにパワーファイトを見せつける事が多い。

彼としては「ちょっとあんたの協力が必要だが、このマスカラス様がかけあげるんだからしっかり対応しろよ!」という感じだったのに対し、ブロディは「空中殺法なら仕方ないが何でお前らみたいなナッツ野郎からこんな技を受けなきゃならんのだ!俺はスーパーヘビー級なんだぞ!」とカタくなってしまったのではないかと思うのです。以降頭を擦り合わせる事と、リズムの悪いもみ合いの連続なのですね。
ではどちらに非があったのか?私はマスカラスだと思います。ブロディも悪くないとは思いませんが、「得体のしれぬ強さ」を売り物としている彼が衰えが見え始めた往年の名選手に全面的に付き合ってしまうのはイメージダウンもいいところ。むしろマスカラスが自身の今置かれた状況を理解せず、全盛時と同じような感じで相手に絡んでいったのが要因だと思うのです。まあ、それがマスカラスというレスラーの特性なんでしょうけど。。。
更にもっと言えば、これは全日サイド(ジャイアント馬場?佐藤昭雄?)がある程度想定済みでやっとことでは?という感じもします。観客の好みが変わりつつある日本マットに対し、今まで通りの待遇は要求しつつも自身は変えようとしないマスカラスに対し、身をもって現状を知らしめようとした。。。
このシリーズへのマスカラスブラザースの参加自体が唐突でしたし、多少はいい内容になりそうな馬場・ドリー組戦、鶴田・天龍組戦ははなっからノーテレビ。興味を引きそうなシン・上田組戦もノーテレビ会場でしたし、変な感じになりそうな超獣コンビとの対戦だけ当初からガッツリテレビ中継の予定だったというのは、「結果を出せばそれでよし、出せなかったら引導を渡すいい口実になる」という事だったのではないか?と思いたくもなります。以降ドスには来日の声はかからず、マスカラスも再登場まで2年近くかかりましたからね。
最初に書いたようにこの試合を生で見た時点では「凡戦」と思っただけで、特に「ヤバさ」を感じる事は出来なかったのですが、長年日本マット、いや海外でもほぼ同じパターンの試合展開で”特別待遇”を受けてきた仮面貴族が「戸惑い」を覚えてしまうという極めて珍しいシーンを見ることが出来たのではないか?そんな風に思いますね。
とにかく当時来場した客はこれが後年何かとネタになる試合とは夢にも思わなかったでしょう。4人の得意技がほぼ出ていない単なる凡戦でした。
今日はこんなところです。それでは、また。
