こんにちは、みやけです。今回は昭和プロレスのお話です。
このブログで何度も紹介していますが、私は全日本プロレス系の中堅レスラーが大好きなのです。阿修羅・原選手(後年メインイベンターに昇格しましたが)、石川敬士選手、大熊元司選手、佐藤昭雄選手、そして先日亡くなられました鶴見五郎選手。。。皆地味なようでよくよく観察すると自身で試行錯誤しながら築き上げた並々ならぬ個性があるのがいいのですよ。
そしてその中でもマイティ井上選手はよくよく観察しなくても、技一つで周囲の目線を一斉に自分に巻き込んでしまうという華がある!更にマイティ選手のインタビューでは彼が実に色々なことに興味を持つ大変造詣が深い人物なのだとわかります。この2点が特に私が好きな部分なのです。

まず後に書いた「マイティ選手の興味」の部分です。井上さんは引退後も頻繁にマスコミのインタビューを受け、現役時代の思い出を語ってくれています。「G スピリッツ」「ミック博士のプロレスマガジン」etc。。。もちろん他の有名OB レスラーたちも近年多くの媒体で過去の思い出を語ってくれたりトークショーを行ったりもしていますが、、、その内容はおおよそ「本気を出せば俺は〇〇より圧倒的に強い。道場では負けたことがない」「俺は組織のために散々自分を殺して尽くしてきたのに誰も俺を認めない」「〇〇に金を巻き上げられた」、、、と言った「自身が延々持ち続ける憎しみ」がベースになったものであり。「結局自分に都合がいいように脚色しているんだろうな?」と思うものが多いのです。
ぶっちゃけいえば聞いているファンは、現役時代に騙され、リタイヤした後の本音?と称するインタビューでまた騙されているようにしか思えんのですよ!ただし井上選手のインタビュー内容は他の選手とはかなり毛色が違う!上に書いたような「恨みつらみの感情」が全くないとは言いませんが、他者への興味が半端なく「いつも好奇心を持ち続けているんだな~」とつくづく思う次第です。解りやすく言うとプロレス以外の事も実によく観察しており、それを他人に分かりやすく語ることが出来る人なのです。
以前Gスピリッツが編集し、辰巳出版が発行した「実録・国際プロレス」の井上選手のページの一部を紹介します。


読んでいただければわかるように(他のページもなのですが)、井上選手が語るのは自分の実績だけではなく、その時周囲にいたレスラーがそれぞれどんな性格で普段はどんな行動をしているかはもちろん、訪れた国の文化・歴史、国民の気質、風景等を時には下ネタをいれw、時にはガチの人種問題を絡め、非常に面白く分りやすくしゃべられるのですね。これは井上さんが非常に感受性が高い方であり、かつ能動的なためどんな場所に行ってもしっかり生活できそうな方であることの証明だと思います。
そしてプロレステクニックの部分、井上選手はこの「好奇心」を自身のプロレスにもうまい形で取り入れたと思います。ただし正直後年の彼の評価としては「サマーソルトドロップのみに特化したテクニシャンレスラー」といったキャラクターレスラーという固定観念に収まってしまっている感があるのですよ。
ストマックブロックからのサマーソルト連発、格下の相手ならそれでフィニッシュ、強い相手なら2発目をかわされる、というのがパターンなのですが、井上選手はそれは基本的なひとつの形としているだけであり、試合が荒れてくれば来るほどその中から急に今までとは違った、それも鮮やかな動きを見せ観客を驚嘆させる!というのが井上選手のプロレスの醍醐味だと思うのです。
このブログでは井上選手の各種テクニックを抽出して紹介していきたいと思います。
この動画は1984年ジョニー・マンテル相手のインタージュニア戦ですね。その他、ロープに飛んでのショルダーアタックからサマーソルト、というのもパターンの一つです。
これは1991年の世界最強タッグでジャイアント馬場に打った珍しいサマーソルトです。興味深いのはこの時の馬場は前年の最強タッグで右足を骨折して復帰間もない頃であり、これ以降16文キックに関してはロープに振ってのカウンターは打てなくなっていました。コーナーポストにもたれかかっているところに相手が突っ込んでくるのに合わせて足を上げる、パターン専門になっていましたね。しかしこの動画を見ると「カウンターの16文を打とう!」としているじゃないですか!
それ以外にも、足を悪くしてきつくなっているロープワークをこのシーンでは積極的に取り組んです。天龍らの大量離脱以降、老体に鞭打って?体を張って頑張ってきた井上選手へ、馬場自身が体を張って労った、そんな気がするのです。
そしてどうしても書いておきたいのが、私が井上選手の試合で一番感動したシーン!1993年サマーアクションシリーズ博多スターレーン大会の第3試合で行われた小川良成&マイティ井上組対ジュニー・スミス&ケンドール・ウィンダム組の1戦です。まあ、前座試合です。しかし館内は天井の低く密室性の高いスターレーンということで、第1試合のピート・ロバーツ対カート・べイヤー戦から異様に盛り上がっていました。まだギリギリ「超世代軍ブーム」も残っており、いわゆる”ニワカ”思われる若いファンの方もたくさん来場していました。”ニワカ”の方々は井上選手のサマーソルトドロップを見た瞬間「これこれ~!マイティ井上といえばこれなんだよ!」という感じで過剰な反応で大騒ぎするのです。
しかしその後の井上選手の動きは”ニワカ”のはるか上を行くものでした。ロープに振ってのショルダースローを狙うスミスを側転でかわすやドロップキック、スミスをコーナーに押し込むや倒立してのヘッドシザースホイップを鮮やかに決めます。大騒ぎする”ニワカ”を含めあまり見たことのない技に館内に「ホーッ!」という歓声が広まります。(別の画面ですが下の動画がヘッドシザースホイップです。)
更に井上選手は救出に飛び出してきたケンドールを今度はまたもフライングヘッドシザースで吹っ飛ばし、後ろから突進してきたスミスを交わしてショルダータックルで突き飛ばし、2人を同士討ちさせます。堪忍袋の緒が切れた?2人がつかみかかるも華麗なサイドステップで交わしつつ、井上選手は再度向かってきたケンドールをまたもヘッドシザースで固め、更に向かってきたスミスにはケンドールにヘッドシザースを決めたまま肩に飛び乗り、ヘッドロックを決めるのです。
一見2人に足と首を持たれて持ち上げられている状態に見える井上選手ですが、勢いをつけて前に倒れこむと2人は同時に回転!ケンドールは場外に吹っ飛び、スミスはそのままフォールの体制に持っていかれました!井上選手1人で2人ヘビー級選手を鮮やかに放り投げたのです!しかし惜しくもスミスのカウントは2!しかし”ニワカ”にとっては全く見たこともない技の連発に大狂乱!ノリではなく「こりゃあ凄いものを見た!」という素直な大拍手とマイティコールが館内に爆発したのです。
残念ながら最後は井上選手は力尽きフォールを取られてしまいました。もう人員不足で超世代軍の壁になる時代も過ぎ、緩やかにファミリー軍団へとシフトチェンジしたころだったのですが、「まだまだその気になればやれる!」という動きを井上選手が見せてくれたのは本当にうれしかったですね。私は大騒ぎの館内の中ひとりで「こんなものでマイティ井上の凄さが分かったと思ったら大間違いだぞ!」と二やついていました。
しかし、少々冷やかし気味の”ニワカ”のコールを、自身の動きで”マジ”のコールに変えさせる井上選手の動きはすごいと思いました。さて、少々話が脱線しましたが、以下で井上選手ならでは!というシーンを抽出してみましたので紹介していきたいと思います。
◎ オースイスープレックス
1984年夏、渕正信選手のシングルマッチで決めピンフォールを奪いました。当時渕選手は凱旋帰国からやや低迷期に入っていました。このオースイスープレックスは昭和のプロレスラーで使い手と言えるのは井上選手だけではないでしょうか?いわゆる「後ろへ投げる」技ではないのに「スープレックス」の名称がついていることで、新日ファンからは揶揄された記憶がありますが。井上選手が披露する場合、大見えを切ってではなく、一瞬のスキをついて出すパターンが多いので、固め技のカテゴリとしては実に個性的だと思います。実は83~85年頃にポツポツ使用したのちはあまり使っていない技だと思います。
◎ 飛びつき腕逆十字固め
相手の後ろに回り込み、自分の手と足で相手の両腕を絡め引きずり倒し、そのままフォールを奪う逆転技です。何故か川田利明選手がこの技でよくフォールを取られていた印象があります。タッグマッチで乱戦になればなるほど、この技を繰り出してきた時の意外性が光ると思います。この技も「一瞬の返し技」であるにも関わらず井上選手が使うと派手に見えるんですよね。これはプロとしての力量によるものだと思います。
◎ ジャパニーズレッグロール
1989年地元大阪府立体育館にてジョー・マレンコからこの技で勝利を得、世界ジュニアヘビー級王座を奪取しました。動画を見てもらえれば分かるのですが、実際には最終的な形がレッグロールという事であり、実際にはジャーマンを巡る攻防の末、下から潜り込んでエビ固めに決めようとしたマレンコに対し、それから更に覆いかぶさって3カウントを奪ったのです。
この当時の井上選手はアジアタッグ戦線からも退いており、徐々に前座選手に移行していくイメージがあったのですが、この王座奪取で急遽息を吹き返した感がありました。しかし当時の熱戦譜をよくよく見てみると戦績については格下の若手相手に次々にフォール負けを許すようになっていたわけではありません。試合順が最初の方になっただけでレスラーとしての格は守られていたように思います。
団体にとってはレスラー個人の強烈なブランド・格を持っておりいざとなったら「奥の手として送り出したい」選手。新日本なら藤原喜明です。私はこの2人を団体側が急遽抜擢した際は「困った時の藤原喜明」「困った時のマイティ井上」と前々から感じていました。しかし、この時期レスラーとしてピーク時とも言えるマレンコに対し、自分のペースを変えることなく対応に渡り合った井上選手は見事だと思いました。申し訳ないですが、この年の夏あろうことかチャンピオンになった百田光雄がチャレンジャーとしてジョーを迎え撃った試合は、あまりの2人の技術の差に見ている方が恥ずかしくなりましたから。。。。
◎ 回転エビ固め
井上選手の回転エビ固めもまたいろいろとバリエーションがあります。上の動画は1987年夏に行われたアジアタッグ王座決定リーグ戦において剛龍馬からフォールを奪ったシーンです、鶴見に羽交い絞めされているところに剛がヘッドバットで突っ込んでくるのですが、井上選手は腹筋で剛の突っ込みを乗り越え、そのまま胴を挟んで丸め込みエビ固めに捉えてフォールを奪います。3人が全員国際出身者でそれぞれがそれぞれのルートで全日マットに上がっているのも思い白い部分です。
更に上の試合はその2年後のエキサイトシリーズ。すでに武道館のメインも経験しトップレスラーの道を上りつつあった川田利明からフォールを奪ったシーン。川田からバックを取られますが、カブキのキックをくらい川田の気がそれたところに井上選手は腰を落として下に潜り込み、まんまと回転エビ固めを決めてしまいます。井上選手が回転エビ固めを決めるパターンはいくつもあるのですが、よくよく見てみると過程が微妙に違うのが面白いところです。
◎ 側転
非常に地味な技ですが、井上選手も側転は意外なところで使います。上の試合は天龍同盟と全日本正規軍の関係が殺伐としていた1990年新春ジャイアントシリーズ。エプロンでセコンドレスラーに気を取られていた天龍に井上選手がフライングショルダーアタックを決めリングアウト勝ちした有名な試合です。大変印象深い試合でしたが、私はその直前に天龍と井上間の攻防で繰り出された側転が非常に興味深いのです。
天龍は延髄切り→ブレーンバスターで井上にとどめを刺そうとしますが、井上は天龍のバックに降り立ちオコーナーズロールアップで丸め込みますが、しかしキックで返されロープまで吹っ飛びます、ロープの反動で井上は返ってきますが、そこを狙って天龍は寝た状態のまま蹴りを入れようとしますが、井上は側転で回避、モンキーフィリップからヘッドシザースで天龍からフォールを奪おうとする、、、といった流れるような攻防です。
プロレスにおける側転って、コミカルな感じで使用されることが多いのですよ。ぽっちゃりしたレスラーが自分の身軽さをアピールするためにパフォーマンス的に披露する、という感じで。アドリアン・アドニスが良くやってましたね。ただし井上選手が使用する場合、試合が混とんとする中で正に相手をかく乱するために使う、という印象が非常に強いですね。
基本的にレスラー同士の流れるような攻防というのは、基本的には同じパターンであることが多い。これが超世代軍の頃になると、ダメージが深そうな技をあえて受つつさらに攻防をを続けるちょっと悲壮感丸出しのケースが多かったのですが、この鶴田軍対天龍同盟抗争末期の頃は、相手の技をいかに躱して自分がそれ以上のインパクトのある技を仕掛ける、といった、「意地の攻防」が目立っていたように思えます。
そんななか、正統派でもあり、トリッキーな動きもできる井上選手というのは非常に使い勝手のいい選手であり、この好走に抜擢されたのではないかと思います。サッと流されてしまいがちですが、私はこの攻防が非常に好きなのですよ。
張り手(対 ラッシャー木村)
最後は張り手という井上選手のイメージとは程遠い技です。しかしこの張り手について元盟友ラッシャー木村との攻防には私個人の強い思いれがあり入れさせていただきました。
動画は1985年両国国技館こけら落としでの馬場・石川・井上組対木村・鶴見・剛組での1シーンです。何よりもまず国際血盟軍というヒールサイドの選手なのにミサイルキック・コブラツイスト・バックドロップ・ネックブリーカーというベビーフェイスが使う技を次々に繰り出す剛には「わかってないんだなあ~」ため息をつきたくなります。しかし私の注目は木村と井上の絡みです。
大切の竹内宏介さんも触れていますが、かつては国際プロレスのエースの座を争った2人が、立場を変えて両国国技館で顔を合わせるシーンはなかなかグッとくるものがあります。館内も少しどよめいています。しかし2人の攻防は軽めで治めていますね。流石にお互いの良さを引き出すポイントは抑えていますが。。。しかし私はこの半年後この2人がド迫力の張り手合戦を見ることになるのです・
この年の夏、福岡スポーツセンターの興行にてマイティ井上&佐藤昭雄xラッシャー木村・鶴見五郎というマッチメークが組まれました。まずテレビにはオンエアされることがないしあいです。しかし試合序盤井上選手は木村選手に向かって恐ろしい強さの張り手を叩き込みます。動画に出る強さなど比ではない、叩いている腕も痛めかねない腰の入った強烈な張り手、それを4発5発と叩き込んだのです。対するラッシャー木村は歯を食いしばり鬼のような表情で耐え、下半身がふらつくことはありませんでした。

そして木村選手の反撃が始まります。例の手のひらを開けて上から下に振り下ろすような重々しい張り手。この力強さがまた半端ない!井上選手の心臓を突き破って手が背中まで貫通するかと思わせるくらい、実に強烈な一撃でした。流石に井上選手はガクッと腰が落ちてしまいます。しかし木村選手は容赦せず2,3,4、5発と鬼の張り手を叩き込むのですが、必死に膝をつきながら耐えていた井上選手も流石に最後はマットに転がってしまいました。
最初は冷やかし気味に木村選手を見ていた福岡のファンも、その張り手のド迫力に静まり返ってしまいました。後々の木村選手と井上選手の関係を考えれば、この攻防はなにか思うところがあった訳ではなく、今は亡き古巣の国際プロのエース同志としてたとえ地方の前座試合でも下手な攻防はできない、という2人のプライドから発生したものではないかと思っています。この時の2人はカッコよかった!
ということで、最後は少し脱線しましたが以上でございます。今後もこの手の企画は行っていきたいと思います。
それでは、また。
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