研修という名のパワハラ 根本の原因はどこにある?

こんにちは、みやけです。今回は短編小説っぽい文章を書いてみたいと思います。Mという50代後半の サラリーマンが主人公なのですが、同僚の女性T子がパワハラに遭っている、という話です。

T子は40代前半、入社6年目の既婚女性。最初はパートさんとしての入社でしたが、真面目できめの細かい仕事ぶりが認められ2年前に正社員に登用されました。とある小売店の本部のやや特殊な部で請求関連の業務を担当しています。

部のメンバーはT子、およびMを含めて6名の小規模所帯。しかもT子以外は全員40代中半~50代後半というやや、いや、かなり中年臭の強い課なのであります。ちなみにMは一時はその部署の責任者であったのですが、5年前にガンを患い1年間休職した事により現在はT子と同様の主任クラスであり、課内では一番低い階級となっています。

部内全体の雰囲気は、良くもなく悪くもなく、まあ普通。部内で飲みに行くようなことは無いのですが、特に険悪な関係の人が居るわけでもなくそれなりに平穏な日々が流れています。しかしその本体となる会社、D株式会社の社風はやや面倒くさい

会社は非上場、そのトップのN社長は2代目のワンマンタイプ。日本最高位の大学を卒業している為か、社員に対して見下した感じになるのは否めません。本人は意識してそうしているわけではないようなのですが、、、初代社長はイチから会社を興した現場重視のたたき上げタイプですが、現N社長はそれに相対するかのように、データ分析・最新システム導入に熱中しているのです。

N社長は人間的にはそれほど悪いという訳ではありません。いや、世間一般の中小企業には、強欲・傲慢・不遜なタイプの人間は山ほどいると思うのですが、Y社長はそれなりに優しさ、理解職もあるまともな方な社長であると言えると思います。

しかし上でも述べたように、とにかくデータ分析が大好き!小売業の社長ですから、「この商品がトレンド!」とか「今これではなくこれを使用する事が世間の常識!」みたいな「商品そのもの」にまず最大の興味を払うべきだと思うのですが、自身が普通の学生生活を送り、次期社長として一旦は某超大手商社に入り5年程”修行”して今の会社に入った経由からして、根っからの商売人という気質でもないので、あまり「接客」とか「商品の特性」には興味は持てないのかもしれません。

N社長は、自身が信奉しているTBという分析システムの使用を社内で強力に推し進めています。しかしD社は小売店の中でもやや特殊な部類の商品の販売を主体とする企業であるため、その商品を売るという事に魅力を感じて入社してきた社員が多く、ただでさえ人手不足の店舗の社員にもその分析システムの会得を半強要される雰囲気に壁壁している社員は非常に多いのが現状です。

更には給与面でも一般よりは下である為、退職者が後を絶ちません。D社は地場のCMはガンガン流しており、更にその内容はクリエイティブで楽しいイメージが強く打ち出されている為、入社を希望する社員の多くは「これは想像力をフルに駆使できそうな遣り甲斐のありそうな会社だ!」と思って入ってくる訳です。

しかし、その実態はというと、そんなイメージ戦略に関われそうな社員は計10名にも満たず、しかもその大半は社長の引きで中途入社した者ばかり。勘違いして入社した新卒社員は、小売店の宿命である来店する顧客の細かな対応な日々に追われる中段々と辞めて行ってしまう訳です。

しかし、それは勘違いする新卒社員側にも非がないわけではないのですが、あれだけオシャレでまったりした感じなCMを長年放映していると、そりゃあそういうイメージを自然に持たれるわな、とやはり中途社員の一人であるMも常々思う訳です。

現状の会社の人員構成ですが、将来を担わなければならない20代後半~30代後半の社員がスカスカの状態になっており、一体10年後にはどうなっているのかと思わずにはいられません 。社内の噂では「いずれ社長は懇意にしている業界大手のK社にこの会社を売却するのでは?」ともっぱら囁かれています。

話が大きくそれましたが、このような「社長自分のやりがいの為」としか思えないにも関わらず、「TBシステム分析勉強会」という研修会を立ち上げ、ただでさえ人員不足の社内各部署から半強制的に1~3名程度固定の参加者を集めリモートでの勉強会を週1行っているのです。

しかしその会に社長が参加しているわけではありません。社長自ら引っ張ってきた子飼いのシステム部社員を”講師”として勉強会を行い、その都度社長に報告を上げる、という内容なのです。そしてそれがレクチャーするだけの内容なら良かったのですが、宿題が回を重ねるごとに増え、そしてグループで考えるシステム開発なる課題も与えられ、参加者は毎週日々その対処に時間を割かねばならなくなったのです。

T子の所属する部署は少数精鋭の部署であるので、プラスアルファで勉強を行うような余裕は全く無いのですが、”社内各部署にTBシステムを理解したものが配置され、その参加者が部内に講師としてシステムを教えていく”というN社長の理想を実現するため、泣く泣く携わる羽目になったのです。

その研修が始まった半年、T子は研修対応に時間を割かねばならぬため、週1日はその課題解決に専念延する為、自宅での勤務となりました。その結果、T子がルーチンで行っている作業の半分くらいは社内での勤務が多い Mが背負うことになったのですが、T子の最近のいっぱいいっぱいの様子を見て「まあ、仕方が無いか」と受け入れていました。

そして、そんなある日、Mは勤務中T子と2人だけになる機会がありました。他の4人の部員も基本内勤のためそのような状態になることは少ないのですが、その日は一人が有休取得、3人が同一のお客さんのところに訪問していたため珍しくそんな状況になったのです。

その前にMはT子が社の人事総務に対して「研修の内容があまりにハードなので抜けさせてもらえないか?」と直接メールしていた、という話をなんとなく聞いていました。T子は感情的に動くような女性ではないので、半信半疑に思っていたので、Mは「研修って凄くハードだと聞いているけど。。。」とタイミングを見て話しかけてみました。

MとT子の関係は、良くも無く悪くも無く「まあまあ良好」という程度。基本的には当たり障りの無い世間話しかしません。ですのでいきなりズカズカと突っ込んだ事を聞くわけにも行かず、ソロリソロリと聞いていかないとかえってややこしくなりかねないのですが、T子を相当に鬱憤が溜まっていたのか、2.3回のラリーの後「聞いてくださいよ!」と思いのたけをぶちまけ始めたのです。

内容を列記すると

① 研修の課題はかなり難しく量も膨大。回を追うとに増えており、ここ2ヶ月は自宅勤務時でも全く処理できず、週2回の休日の自由時間をフルに使っても終わっていない。家事もほとんど出来ておらず夫から「おかしい」と詰められている。

② 他の部は比較的暇な社員が選ばれており、なんとかこなしているようだが、自分は軽減されてるとはいえ手持ちの業務と同時進行であり、一部をやってもらっても、間違いがないかのチェックが必要があり、負担は多い。

③ これまでなんどか部長・課長に「限界である」事を訴えてきたが、「自宅勤務」や「一時的な業務変更」で対処されてきたが、とてもそれで収まるレベルではない。勇気を出して訴えたのは「課題の量を検討する事」であったのだが、その事を講師のシステム部社員に話す気はまったく無いようで、今回も「微調整」で対応しようとしている。

④ そして、部長を通り越して人事部に直接メールをしたことについて、部の課長から諌められた「我々がうまく対処するからあまり波風立てないほうが良いよ。あと1ヶ月ちょっとの辛抱なんだから。がんばって乗り切ったほうが社内の評価も上がるんだから」という事を言われた。

T子が”切れた”のは特に④の部分だったようで、その事を話す際には「なぁ~にが波風よ!なぁ~にが評価よ!」とはき捨てるように声を荒げていたのです。MはT子が感情むき出しになるシーンは始めて見たのです。基本的には「我慢してやり過ごす」タイプの人であるのに。。。

でもMにとってはT子の憤懣やるかたない心境は痛いほど良く分かりました。これが事務所内で作業を必要であるなら、”タイムカードの打刻”という明白な証拠が残ります。しかし自宅勤務をおこなっても終わらず、本来休日にもそれを行っても終わらない課題、、、この時間には何の証拠も残りません。

それにやる側としたら、急激に店舗の売り上げが伸び、それに対処しなければならない、とか、大きな売り上げダウンが突発的に発生しなんとかダメージを軽減するために時間を割かねばならない、といった話だったら、文句も言わず働くと思うのです。

しかし、今回は社長のやりがいの為、社長目線でフィルターに掛けることなく課題が社員に与えられ、間で調整するる人は見てみぬ振りをしている、となれば感情的にもなるでしょう。 ちなみに人事部に送信したメールについては部の課長から変身があったようですが、「貴重なご意見ありがとうございます」と言った煮ても焼いて無喰えない内容、、、「この会社に味方はいないのか!」と憤りたくなるのも無理はありません。

T子がMに対して何故想いをぶちまけるに至ったのか?以前Mが自身の処遇について人事部と揉めた、という話を断片的に聞いていたからかも知れません。また、以前Mとの世間話の中で「自分は一時メンタルを病んで、その対処として民間のカウンセラーの資格を取得した」という話を覚えていたからかもしれません。

Mは8年ほど前、折り合いが悪かった上司のI部長、及び古参社員で当時は定年後の契約社員だったKから、勤務終了後社内一室に呼び出され退職を強要されたことがありました。Mは翌日休みを取り、即地元の労働基準局に出向き、社名を伏せ事の内容の顛末を話すと「明らかに職務上の優位性を利用したパワハラである」という言質をもらいました。

その内容を踏まえ、人事部に抗議を行い部署の異動を申し出ました。そうすると早速人事部長からアクションがあり、口頭でですが「パワハラがあったと認識している」と話し、「Mさんの悪いようにはしない。しかし、ここで異動を認めるとMさんが悪いような周囲の印象になる。K(別倉庫勤務)は今後一切Mさんとは会話させないようにするし、I部長からは謝罪させる」と言う回答があったのです。

なんとも微妙な内容ですが、会社側からの譲歩が感じられる内容であったため、Mはそれを受け入れたのですが、特にI部長からの謝罪は無く、その3ヵ月後にはMに対して別倉庫に勤務するKと同じ場所で勤務するよう辞令が下ったのです。

Mはその少し前から、血液のがんが判明、まだ軽度だったので経過観察中だったのですが、”退職勧告”の前後でみるみる数値が悪化したので「負担の軽い業務への配属転換」を会社にお願いしていたので、官職に回ることは納得できたのですが、よりによってKと同じエリアの中で働く、と言う事は受け入れがたい内容でした。

しかしMは、「これから休職にんる可能性が高い。とりあえず会社を首にならぬようのらりくらりと勤務するしかない」と決め、仕事を続けました。幸いにも「KはMに話しかけない」という約束は守られました。

こんな感じでD社の人事部は上っ面は調子の良いことを言いますが、実際には社員に寄り添って動くようなことは無いのです。そういえば、2年ぐらい前から全社員に対し「どんな気持ちで働いているか、悩みは無いか」的な webアンケートを月1で実施しています。

専門のサイトを利用したものですが、期限に入力できなかった社員がいると実にしつこく連絡が入ります。しかしそれに回答してなんらかの対処があったか?誰も聞いたためしがないのです。普通に考えれば、体外的に「うちの会社は社員のメンタルを常に気遣ってこんな事を全社員に実施しています!」と外に向けとの証拠固めをするためのアピールにしか見えないのです。

T子はMとの会話の中で「他の部署の女性で、あまりの待遇の酷さに人事部に直接訴えを起こした人を何人か知っているが、いずれも上っ面の回答しかもらえず、逆にその後嫌がらせ的な事をされた」と述べました。

T子は色々とまくし立てましたが、何かこう言葉に出来ない、うまく表現できない点があるように思えたので、Mはこう言いました。

「確かにY社長は冷たい、親しみがもてない。でもそんな社長はごまんといる。この会社の悪い点は、そのすぐ下の人間、部長・上級課長が重度のイエスマンばかりで、社長に反論する、いや提案する人間が皆無に近い。そこが問題。」

「その事を自分で理解してるのか?いないのか?社長から無理難題を振られてもニヤニヤ笑って微調整で乗り切る事ばかり考えている。反論されることが嫌で目先のどうでも良いような細かな成果ばかり報告して点数稼ぎしている。」

「社長から反論されるのが嫌で長期的な目標を建てる幹部社員が皆無。建てても反論されてたら直ぐ引っ込めてしまう。これでは若い社員が幻滅して退職していくはず。社内では指摘されていないが、部長・上級課長職の社員があまりにイエスマンばかりなのがこの会社の最大の問題点!」

Mのその言葉を聞きようやくT子に少しだけ笑顔が戻りました。「ホんんんんっとそうですよね!」と心の底からの声を出したのです。その後何度かのラリーがあり、「Mさんはそこまで酷い目にあって何で会社を辞めようと思わなかったのですか?」逆に聞いてきたのです。

Mは「ちょうどそのころ体調が悪化していたので、やむ得ず我慢して勤務することを選んだ。がんが悪化して1年間休職し、復職してようやく体調も安定してきたので、昨年から転職サイトに登録して求職活動を始めている。年齢的になかなか良いのは無いけどね」と語りました。

T子は最近偉く会社に従順になったMが転職活動をしているとは想定外のようでした。しかしそのような質問をするという事はT子も退職の意思が強くなってるのかも知れません。Mは最後にこうT子に語りました。

「私が止めると誰々に迷惑がかかる、とか、誰々の負担になる、なんて一切考えないほうが良い。それは会社が解決する問題。T子さんが納得する道を選んだほうが良い。なかなか100%納得できる答えは出ないかもしれない。」

「でもそれが80%の納得度でも50%の納得度でも自分が決断したら、それに全力で取り組むほうがいいんじゃないかな?自分に本当の気持ちがあるのを誤魔化しながら生きていくのは、自分人身を攻撃して生きること。うちの部長・課長の姿がそれよ。あの人たちのメンタルはずたずたの筈。」

「T子さんが決断したことを俺は応援しますよ。」

一応、問題の研修はあと1ヶ月ちょっとで終わるようです。ただし今回は”入門編””初級編”的なレベルの講習のようで、Mは第二段、第三弾があるのではないか?と予想しているのです。そしてその予想はT子にも伝えました。

T子はどんな決断をだすのでしょうか?毎日来るまで1時間半掛けて通勤しているT子。まじめで勘の良い彼女ならいくらでも良い職場があると思うのですが。。。。。

能登半島地震 私の物流論

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール